マイナス金利について
マイナス金利とは
まずはマイナス金利とは何かから。
・日銀の当座預金の一部にのみマイナス金利が適用される
・具体的には、+0.1%が適用されるのは210兆円(基礎残高)、0%が適用されるのは40兆円(マクロ加算残高)、-0.1%が適用されるのは10兆円(政策金利残高)
というのがマイナス金利の概要です。
基礎残高が甘く設定されているので、すぐにマイナス金利が適用される残高は数%程度と少ないです。マクロ加算残高については日銀のさじ加減次第ですが、後述する通りデメリットも大きい金利政策なので急にマイナス金利適用残高を上げていくことはなさそうです。
現在の金融市場調節方針が継続すると仮定すれば、金融機関全体の当座預金残高は年間約80兆円のペース、すなわち3か月で約20兆円のペースで増加する。マクロ加算残高(当初約40兆円)を見直さなければ、増加部分はすべて政策金利残高となり、3カ月後には当初の10兆円+増加分20兆円で、30兆円になる。
ここで、例えばマクロ加算残高を約20兆円(個々の金融機関の基礎残高の10%)追加すると、当初の約40兆円から約60兆円に増える。政策金利残高は2月と同じ約10兆円に戻ることになる。http://www.boj.or.jp/announcements/release_2016/k160129b.pdf
また、マイナス金利はすでにヨーロッパでは実施されています。
同種の政策は欧州中央銀行、スイス中央銀行、デンマーク中央銀行、スウェーデン中央銀行等ですでに実施されており、新奇な政策ではありません。1月29日の日銀の決定を「劇薬の投与」、「未踏の領域」などとした報道がありましたが、ヨーロッパではすでにおなじみの政策なのです。
先行するそれらヨーロッパで、マイナス金利のために個人の預金金利が低下したのは確かですが、マイナスになった例はほとんどありません。預金金利が低下するのは預金者としては楽しいことではありませんが、貸出金利が低下するという作用があることも忘れてはいけません。
また、今回の決定は、マイナス金利の適用範囲が日銀当座預金の一部に限定されており、皆さんの銀行預金への影響が小さくなるように巧妙に考えられています。
マイナス金利の影響(商品)
マイナス金利になるのは銀行が日銀に置いているお金のほんの一部なので、すぐに企業の収益や一般の銀行口座に影響が出る部分は小さいのですが、商品にとってはいくつか影響があります。
1. 国債の金利低下・販売停止
新発10年国債の利回りが0.05%付近まで低下して、国債も当然運用コストがあるので、コストを考えるとマイナスになるので販売停止になりました。
Q 今回、募集を中止した理由は。
A 財務省が二日実施した十年物国債の入札では、平均の落札利回りが同日の長期金利に近い水準の0・078%と過去最低を更新した。手数料などを踏まえて価格設定すると新型窓販の利回りがマイナスになる見通しで、買い手が見込めないと判断したためだ。同じ方式の満期二年、五年の国債はすでに募集を中止しており、これで新型窓販の募集はすべて中止となる。
ただし、販売停止になったのは新型窓口販売国債(新型窓販)で、個人向け国債ではありません。
新窓販国債は個人投資家が購入できる国債ながら、いわゆる個人向け国債ではない。個人向け国債は個人しか購入できないが、新窓販国債は購入者に制限はなく法人や組合などの名義でも購入可能。通常発行される国債を個人に気軽に買えるようにしたのが新窓販国債であり、このため個人向け国債とは異なり、価格変動リスクに晒される。新窓販国債は2年、5年、10年の3種類の国債が用意されている。
新窓販国債の2年債は2014年10月より募集停止となり、5年債は2015年1月に募集停止となっている。これは2年債や5年債利回りがゼロ近辺かそれ以下に低下したためであり、今回の10年債の募集停止も同様の理由による。
2. MMFの受付停止
運用先である国債の金利の一部から運用コストを引くとマイナスになってしまうので、こちらも受付停止となりました。
マイナス金利政策導入に伴うMMFなどの日々決算型公社債投資信託の購入の申込一時停止状況まとめ | 1億円を貯めてみよう!chapter2
3. 銀行の利子低下
同様に、運用先である国債の金利が減ってしまうので、ソニー銀行などは金利を0.001%にしています。
どうせなら0%にすればいいんじゃないかと思いますが、0%にできない理由の推測はこちらです。
政策金利残高にマイナス金利が適用となったんだから、いっそのこと普通預金などの金利を0%にしないのはなぜか? | 1億円を貯めてみよう!chapter2
追記)
4.日本債券ファンドの受付停止
三井住友トラスト・アセットマネジメント株式会社が日本債券ファンドの受付を停止しました。安定した収益が確保できないことからの運用停止です。
http://www.smtam.jp/shared/pdf/news/20160208_.pdf
マイナス金利の影響(銀行)
1. 銀行の収益低下
例えば銀行が日銀の当座預金に10兆円預けていると、-0.1%で年間100億円の損失になります。ということはマイナス金利をさらに進めていくと、銀行の収益に影響を与えてしまいます。また、日銀の当座預金に適用されるのは一部ですが、市場金利は下がり、全体的な利ざやが縮小してしまうので収益に悪影響がありそうです。金融株が下がるような施策は打ちにくいです。
そして、日銀自体にとっても悪影響があります。日銀は年間80兆円のペースで国債を買っていますが、国債価格が上昇(金利が低下)すると日銀の収益が悪化します。もしさらにマイナス金利が進められて利回りがマイナスになると、国債を買い入れる日銀が損失を出してしまいます。
そのため、これ以上のマイナス金利は適用しづらいと思います。
日銀のマイナス金利が、かなり留保条件付きのもので、むしろ今後の日銀がかなり手詰まりになってきたことを露呈したことが、円高への追い風になったものと思える。前回に引き続いて、結果論としては、黒田さんの限界も見えてきたということになるだろう。そろそろ、日銀が何をしても、吹き値は売り、という原則をたててもよいのではないか。
銀行がどのように対応しそうかはこちら。
黒田マイナス金利、適用対象30兆円、民間銀行はどう動く、その影響は - Bloomberg
個人投資家はどうするか?
特に何もしなくていいと思います。
もともと銀行の金利なんて無いようなものでしたし、定期預金もほぼ利子がないに等しくなるので、普通口座に積んでおけばそれでよいかと思います。そういう意味では、国債を買ったり数ヶ月ごとに定期預金を買ったりする作業が無くなって楽になるともいえます。
また、ないとは思いますが、たとえ銀行口座でマイナス金利が-0.5%になったとしても、リスクとリターンから考えると大きな影響ではないので、あせって投資行動を変えない方がよいかと思います。
日銀の当座預金の微々たるマイナス金利(しかも、私たちが利用している預貯金や個人向け国債の金利ではない)を必要以上に気にするあまり、いきなり外国株式や外国債券に資産を移し替えるというのは、枝葉末節を気にして根幹を見誤ることになりかねません。
そもそも資産配分は、各アセットクラスの期待リターンとリスク(ボラティリティ)を勘案しつつ、自分のリスク許容度に応じて組み合わせを決定するものであり、少なくとも、日銀の当座預金の金利動向に応じて決めるものではないと思います。
日銀の「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」を受けて資産運用方針をどうするか - 梅屋敷商店街のランダム・ウォーカー(インデックス投資実践記)